弁護士・中小企業診断士の谷田が,中小企業の皆さんを法律・経営両面で支援します。

voluntary liquidation

 ここでは,裁判所を通さずに交渉で金融負債の支払方法を調整したり,負債の金額自体をカットする「私的整理」のご説明をします。主な手法として「リスケジュール」と「第二会社方式」の二つがあります。

初めに~中小企業にとっての私的整理とは~

悩んでいるサリーマン

 私的整理とは「取引債権者を巻き込まず,金融機関の借入金の負担を軽くして,事業を立て直す」手法です。
 この「取引債権者を巻き込まず」というのがとても重要です。これによって,仕入先や下請業者に迷惑をかけずに済みますので,従来の取引関係をそのまま続けることができます。(逆に,取引先を巻き込んでしまう「民事再生のデメリット」はこちら)個々の取引先との信頼関係が特に重要な中小企業にとって,この私的整理のメリットは大変大きなものとなります。
 私的整理がうまくいかなかったとしても,法的整理に切り替えることはできます(というか,それが普通)が,その逆は無理です。
 事業者の皆さんには,まず最初に「私的整理でなんとか経営を立て直せないだろうか?」ということを意識して頂きたいと思います。

 もっとも,私的整理は文字通り「私的」にやるものであって,公権的な力で債権者に働きかけるものではありません。そのため,「全債権者の了解をもらわないと実現しない」という限界はあります。その点はご了承下さい。

リスケジュール・その後の事業再建

 金融機関からの借入金について,返済計画を見直してもらうことを「リスケジュール」(「リスケ」と略されます)といいます。私的整理のうち,「負債の元金はそのままで,支払方法を調整する」方法ということになります。
 弁済金額を細く長くする(場合によっては、一定期間利息だけの支払いにする)ことで,当面のキャッシュフローを改善し,事業の立て直しを図ります。
 もっとも,弁済期間が長くなることで利息の支払額は増えますので,合計返済額は大きくなってしまうのが通常です。
 そのため,大事なのはリスケそのものではなく,「リスケ後,営業利益・営業キャッシュフローをどのようにして改善するか」について,実現可能な計画を立てることにあります。この改善計画がなければ,リスケは単なる延命治療に成り下がってしまいます。

 谷田は,単なるリスケの交渉だけではなく,その後の事業の見直しも含めて助言をさせて頂きます。これがあって初めて,リスケは有効な事業再建方法として機能することになります。

第二会社方式

 会社の事業部門のうち,収益を生み出すものだけを別の新しい会社(第二会社)に移し,旧会社を特別清算などの手続でたたんでしまうやり方です(特別清算の説明はこちら)。新しい会社は,旧会社が負っていた金融負債の一部を引き受け,事業を続けながら引き受けた金融負債を返済していきます。

<第二会社方式のメリット>
 上のリスケと同じく,取引先の債務を焦げ付かせずに負債の整理が出来ますので,事業価値を維持しながら事業の再生を図ることが出来ます。
 また,リスケと違って,払い方の調整だけでなく,金融負債の一部をカットしてもらう余地もありますので,新会社は財務状況を大幅に改善した状態で再スタートできます。

<第二会社方式のデメリット> 
 金融負債のカットを金融機関に応じてもらうためには,従来の経営陣にそれなりの代償を求められます。新会社の取締役から外されたり,(仮に新会社で取締役に留任することが認められたとしても)役員報酬の大幅な減額は飲まねばならないでしょう。
 また,旧会社はたたんでしまうため,旧会社株主の支配権は完全に失われます。新会社は,新しいオーナーの元で再出発することになります。
 更に,旧会社の金融負債を連帯保証していた人(通常は代表取締役やその親族)は,個人のめぼしい財産の大半を吐き出して,負債の返済に充てることを求められます。

 以上のことからもわかるように,第二会社方式は私的整理の中でも強力な効果を持つ反面,従来の株主・取締役にも大きな負担を要求する手法です。経営者自身に「自分はどうなってもいいから,従業員や取引先を守りたい」というくらいの気持ちがなければお勧めできません。

 もっとも,上で挙げたデメリットは全て,会社を倒産させた場合にも不可避的に生じるものです。「このままではいずれ倒産だ」という状況下において,第二会社方式は経営者がなしうる最善の判断といえます。
 この「第二会社方式」は,谷田が近時特に着目している手法ですので,また別の機会にでも掘り下げた記事を掲載したいと思います。

※注意!
 (最近はだいぶ減ったようですが)「第二会社方式を使えば,債権者に知られずに負債を減らせる」などと謳った自称コンサルタントのホームページを散見します。金融機関の同意を取り付けない第二会社方式は,裁判で取り消されることもあり(いわゆる濫用的会社分割),事業価値を損ねてしまうだけの結果に終わります。くれぐれも「うまい話」に乗っからないようお気を付け下さい。(あくまで私見ですが,第二会社方式の提案にあたり「旧会社の清算」にまで言及しているサイトは,比較的信頼できるように思われます。)