弁護士・中小企業診断士の谷田が,中小企業の皆さんを法律・経営両面で支援します。

legal liquidation

 債権者と任意の話合いがつかない場合,法的整理によって会社の再建を目指すことになります。ここでは,再建型法的整理の代表例である「民事再生」を中心にご説明します。

(清算型法的整理の代表例である「自己破産」はこちら

はじめに

 再建型の「法的整理」には,「民事再生」と「会社更生」の二つがあります。
 もっとも,手続の性質上,地方の中小企業のほとんどは「民事再生」の方を選択することになります。(九州全体を見渡しても,民事再生は平成24年に20件,平成25年に18件申し立てられたのに対し,会社更生は両年とも0件でした。)
 「地方の中小企業を応援する」というのが当事務所の経営方針でもありますので,ここでは「民事再生」に絞ってご説明します。

民事再生手続の概要

外観

 民事再生手続の説明を詳細にするとなると,スペースがいくらあっても足りません。
 ここでは,ざっくりとした説明に留めます。(いつか掘り下げたコーナーを作りたいですが・・・)

 民事再生を申し立てると,ほとんどの債務の支払いが禁止されます(例外:少額債権や,電気料金等インフラ関係の債権等)。
 そして,会社は経営を続けながら,「何円くらいの価値の財産を持っているか裁判所へ報告」したり,「負債の何%を,どのようなペースで支払うかの計画」を立てたりします。会社が立てた「再生計画案」は,最終的に「債権者集会」で賛否を問われることになります。
 この「債権者集会」で,債権者の過半数(債権額・頭数両方について)の同意が得られれば,再生計画案が認可されることになります。会社は,認可された計画案に従って,カットされた負債の弁済をしていくことになります。

 民事再生の方向性を決定づける「再生計画案」は,大きく「収益弁済型」と「事業譲渡型」の二つに分類できます。
 「収益弁済型」は,経営を続ける中で得られる収益を,負債の分割払い(最長10年)に充てるというものです。
 「事業譲渡型」は,会社の事業自体を第三者(普通はスポンサー)に売却し,その代金で負債を一括弁済するというものです。
 後述しますように,民事再生を申し立てると会社の収益力が急落しますので,自力のみでの再生は難しいのが正直なところです。どういった形で救済してもらうかは別として,民事再生の成功にスポンサーの存在は不可欠と思われます。

民事再生のメリット

ここでは,民事再生手続のメリットをご説明します。

  • 主体的に事業を続けることができる
  •  会社をたたんでしまう「破産」と違って,会社の経営を続けながら債権カットを実現できます。
     また,裁判所の選任する「監督委員」のチェックが随所に入るものの,基本的に従来の経営陣が主体となって事業を続けることができます。

  • 全債権者の同意が不要
 全債権者の同意が必要な「私的整理」と違って,民事再生は債権者の過半数の賛同が得られれば計画案が認可されます。

  • 債権額自体を大幅にカットできる
 法的整理ならではのメリットです。
 私的整理では,一部例外もあるものの,主要債権者(=金融機関)は債権額のカットにまでは応じないのが通常です。
 他方,民事再生では,裁判所を通じた法的強制力によって債権額のカットを実現できます。事案にもよりますが,債権額の80%~99%程度のカットを実現できます。

民事再生のデメリット

 他方,民事再生手続のデメリットは以下のようなものです。

  • カットする債権を選べない
 私的整理では,「仕入先の債権は全部払って,金融負債のカットだけをお願いする」といった柔軟な設計が可能ですが,民事再生ではそれができません。(少額のものは別として)仕入先の買掛金・金融負債とも一律カットの対象となりますので,仕入先が怒って取引を続けてくれなくなることもあります。

  • 当面,信用取引ができない

 取引を続けてくれる仕入先も,民事再生申立後は現金決済を要求するようになります(掛取引を飛ばされるおそれがあるわけですから当然ですが・・・)。そのため,当面の運転資金の確保は必須です。


  • 収益力が低下する
  •  経済的信用を失うわけですから,それまでの販売先が離れていったり,取引規模自体を縮小されるおそれがあります。
     少なくとも,民事再生申立前と同水準の売上高を維持することは難しいでしょう。

  • 従業員の士気が低下する

 地方では,民事再生申立は確実にトップニュース扱いで報じられます。「自分の勤めている会社が倒産した」ことを報道で突きつけられるわけですから,経営者側の予想以上に従業員の士気は低下します。

 また,有望な新人が再生会社に進んで入社するわけもなく,人事面において長期的な弱みを作ることになります。


  • 高額の費用がかかる

 他の事件類型と同じく,「裁判所に納める手数料」「手続を代理する弁護士費用」が必要になるのですが,どちらも大変高額です。(地方裁判所・総負債額によってまちまちですが,どちらも数百万円に達するのが通常です。)

 前述の「当面の運転資金の確保が必須」であることと相まって,相当まとまった額の現金を手元に確保できていないと,利用は事実上不可能です。

結局,民事再生とは?

 以上のメリット・デメリットから,民事再生はあくまで「最後の手段」「劇薬」であることが分かって頂けると思います。強力な債権額のカットが得られる一方,会社の価値・信用は大幅に低下します。
 谷田は,これまで3社(畜産会社,資材製造会社,ビジネスホテル運営会社)の民事再生を担当させて頂き,幸いにも3社とも再生計画認可を得ることができました。
 しかし,中小企業診断士になった今振り返って見て思うのは「もう少し早く来てくれていたら,ここまで事業価値を損なわなくて済んだのになあ」ということです。

 民事再生を申し立てるような事態に陥る前に,経営の見直しの段階でご相談頂ければ,企業の長期的な発展が見えてくると思います。できれば,「資金繰りに窮するところまでは来ていないけど,ここ数年は業績が思うように伸びないなあ。」「節税を意識しているわけでもないのに,ここ数年続けて経常損失を計上している・・・」という段階でご相談を頂ければと思います。