中小企業のご相談のテーマとして多いのは,やはり契約書に関することです。
契約書作成やチェックを弁護士に依頼するときの注意点は,「契約書と弁護士1(弁護士の活用法)」以降の連載でお話ししたとおりですが,会社業務の現場では,むしろ弁護士の関与なく締結する契約の方が多いでしょう。
そこで,今回から数回かけて,「契約書を取り交わすときの注意点」や,「契約書に代わる証拠の取りつけ方」等,会社の担当者様に気をつけて頂きたい契約書のお作法やルールについて,数回に分けてお話ししようかと思います。
会社の法務担当者様にとっては「何を今更・・・」という内容も含まれていますが,契約書について自信を持って対応できる方は案外少ないものです。
おさらいも兼ねてお付き合い下さい。
~契約書の機能について~
「契約書を取り交わさないと,契約って成立しないんですか?」というお尋ねを受けることがあります。
ですが,我が国においては,一部の例外を除けば,意思表示だけで契約は有効に成立します。
「A社製のノートパソコン(型番XYZ-123)を1台,8万円で売って下さい。」
「いいですよ。」
契約書を取り交わさない,たったこれだけのやりとりでも,売買契約はきちんと成立するわけです。
「じゃあ,何のために契約書ってあるの?要らなくない?」ということになりそうですが・・・契約書の役割は「証拠として残す」という一点に尽きます。
理屈の上では,口約束で契約が成立するとは言っても,後日その契約に関連してもめたとき,口約束ではないのと同じです。
「あのとき,パソコンを8万円で買うって言ったじゃないか!8万円払ってくれよ!」
「そんなこと言ったっけ?6万円じゃなかったっけ?」
というやりとりになると,売主は買主から8万円取り立てるのは至難の業です。(取れてせいぜい6万円)何の証拠もないわけですから。
ひどいときなど
「そんな契約をした覚えはないよ?だから1円も払わない。パソコンは持って帰ってね。」
という展開もあり得ます。
このような感じですので,「契約」と「契約書」の関係を一言でまとめますと・・・
「契約書がなくても契約は成立する。でも,契約書がないと揉めたときに大損するので,きちんと契約書を取り交わした方が良い」
ということになります。
ちなみに,「契約書がなくても『原則として』契約が成立すると言いましたが,例外もあります。
事業用に土地を借りて建物を建てようとするときは,きちんと公証人役場に行って公正証書で契約をしないと「無効」になります。(いわゆる「事業用定期借地権」の問題)
また,「アパートの一室を2年間だけ人に貸したい」「後で素直に退去してくれないと困るから,2年きっかりで出て行ってもらえるようにしたい」というとき(いわゆる「定期借家契約」)は,何らかの契約書の取り交わしがないと「無効」です。
この辺について掘り下げていくとキリが無いのですが,とにかく商売をやっていて大事な取り決めをする際は,まずは契約書の取り交わしをイメージしましょう。