弁護士・中小企業診断士の谷田が,中小企業の皆さんを法律・経営両面で支援します。

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債権回収10~何を差し押さえる? 給与債権編~

2018年02月12日

 さて,前回は,債権回収に役立つ財産として「預金」について説明しました。今回は,預金ほどメジャーではありませんが,回収効率の良い財産をご紹介します。
 今回は,相手方が給与所得者の場合に極めて有効な「給与債権の差押」について説明します。

 相手方が給与所得者であれば,相手方の給料の4分の1を差し押さえることができます。
 やり方は預金の場合とほぼ同じです。まずは裁判所に相手方の給料の差押えを申請します。これが認められると,裁判所が相手方の勤務先に
「貴社の従業員であるAさんの給料の4分の1は差し押さえられました。今後,Aさんには給料手取額の4分の3しか支給してはいけません。」
「4分の1は,債権者であるXさんに支払うようにして下さい。仮に,間違って給料全額をAさんに支払うと,支払った金額の4分の1は無効になりますよ。」
という通知をしてくれます。

 後は同じように,相手方の勤務先から毎月給料の4分の1を取り立てることができるようになります。(給料の4分の1はあまり高額ではないので,全額回収まではちょっと時間がかかります。)
 預金と違って,「うちにも貸付金があるので支払いには応じられません。」と断られる場面も少ないです。(相手方が社内貸付制度を利用していると,給料天引きに負けることもありますが,ケースとしては多くありません。)そのため,預金を差し押さえるよりずっと成功率は高いです。
 給与所得者に高額の債権を持つ場面はあまりないでしょうが(結婚披露宴の代金とか?),もしそういった事態に陥ったら真っ先に検討したい回収方法です。

 デメリットとしては,「相手方の勤務先が分からないと申請できない」ということでしょうか。この点は,「預金差押えの場合には,銀行名と支店名が必要になる」のと似ています。そのため,個人に対して高額の債権を持つ場合は,相手方の勤務先の確認をしたいところです。
 高額の支払いを待ってあげるわけですから,相手方に真っ正面から尋ねてもいいと思いますし,申込書に勤務先を書いてもらってもいいでしょう。

 また,給料独自の弱みとして,「相手方が退職してしまうとそこで回収が止まる」ことが挙げられます。そのため,相手方が比較的退職しやすい雇用形態ですと,退職して逃げられる可能性もあります。
 逆に言えば,相手方がそう簡単に退職しない公務員やインフラ系企業従業員とかだと,差押を受けてもそのまま勤務先にしがみつくでしょうから,回収の効果は抜群です。

 相手方が退職しそうな場合の対応策ですが,相手方の親族に手堅い正社員・公務員がいれば,その人にも連帯保証人になってもらって,逃げ得を防ぐのも一手です。
(※ 連帯保証人については,この度の民法大改正によって様々な規制が課せられるようになりましたが,主債務者が給与所得者である場合の規制はさほどではありません。この辺は,また機会を改めて「民法大改正」というテーマで解説しますね。)

 相手方が給与所得者の場合の,有効な差押財産は今回お話ししたとおりです。
 次回は,相手方が事業者の場合の,有効な差押財産について説明します。おそらく,この一連のコラムをお読みの経営者の皆さんは,給与所得者よりも事業者に対して売掛金を持つことの方が多いでしょうから,次回の解説はとても大事です。
 是非ご確認をお願い致します。