弁護士・中小企業診断士の谷田が,中小企業の皆さんを法律・経営両面で支援します。

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遺言について

2016年02月15日

 今回は,中小企業の事業承継でもキーとなる「遺言」についてお話しします。
 経営権を親族にバトンタッチするにあたり,遺言を活用することは当然の前提になっているのですが(「事業承継」をご参照下さい),そもそも遺言の正しいルールがあまり周知されていないような気がします。
 最近はテレビとかでもよく「遺言」「遺産分割」が取り上げられたりしていますが,見ていて「うーん,こんな解説をしたら誤解する人が出てくるんじゃないかな?」と不安に思うことがよくありますので,基本的なところからお話をしていきますね。
 また,経営者以外の方にとっても,「遺言」は人生の中で関わりを持つであろう大事なテーマですので,このコラムをきっかけに関心を持って頂けると嬉しいです。

1,遺言は文章で!
 「遺言」という字面がこういった誤解を招くのかも知れませんが,口頭での遺言は原則として効力がありません。(口頭での遺言が認められるのは,遭難船の中など,極めて限定された状況だけです。)
 遺言は通常「文字に残す」方法でやらないと効力がありません。
 なので,「死に際に父はこういうことを言っていた。録音テープもあるぞ!」とか,「死に際の父の発言は何人もの親族が聞いていた!みんなが証人だ!」なんて言い張るのは,法的には全く意味が無いんですね。

2,遺言の方式は法律で決まっている
 上で書いたことと重複しますが,遺言のやり方というのは法律できっちり決まっています
 遺言の方法にもよりますが,例えば後でお話しする「自筆証書遺言」であれば,全文直筆でないといけない等,厳格なルールがあるのです。
 法律で決められた方法を守っていない遺言は効力がありません。

 普通の売買契約書等であれば,裁判官が「この契約書,ちょっと変な書き方だけど,要するにこういうを言いたいんじゃないかな?」と意思をくみ取って救済してくれることもあります。(それを当てにするのは危険ですので,いずれにしても契約書に弁護士のチェックは必須ですが・・・)
 ですが,遺言はそうも行きません。文章を読めば明らかに「長男に全財産をあげたいんだな」とわかる文章であっても,法律で決められたルールを守っていない場合は無効になります。

 「遺言のルールは,契約書作りのルールよりも厳しい」というのは,一般人の感覚からすると正反対のように感じられるかも知れません。それだけに気をつけたいポイントです。

3,遺言は公正証書遺言一択!
 複数ある遺言の方法のうち,「自筆証書遺言」の書き方について取り上げられることがよくあります。要するに,紙とボールペン,印鑑を使って自力で作る遺言書のことなのですが,基本的にお勧めしません
 弁護士になって多くの遺言書を見てきましたが,法務局や銀行にも通用するような(要するに,移転登記を受け付けてもらったり,預金の引出に応じてもらえるような)自筆証書遺言は1回しかお目にかかったことがありません。その1通にしても,専門家のチェックを経ていると思われるものでした。

 「有効な自筆証書遺言にほとんど出くわさないのって,自分だけなのかな?」と思い他の弁護士に聞いてみたことがあるのですが,他の弁護士も似たようなもので「自筆証書遺言は本当に勘弁して欲しいよね。」という感じです。
 法律で決められた厳格な方式を守りつつ,明確な内容の遺言を,一般人が自力でやるというのはかなり無理があります。
 確実に有効な遺言を残したいのであれば,内容について弁護士と打ち合わせをして固めた上で,公証人役場に出向いて作ってもらう「公正証書遺言」しかありません。

 テレビ番組等を見ていて気になった「遺言で誤解されていそうなこと」は以上のような感じです。
 相続は,多くの皆さんに関わりのあるテーマなのですが,法分野としてはかなり奥が深いので、今後はもう少し掘り下げた記事も書いていきますね。