弁護士・中小企業診断士の谷田が,中小企業の皆さんを法律・経営両面で支援します。

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労働者と個人事業主,どこで区別する?その2

2016年01月21日

 前回「労働者と個人事業主,どこで区別する?その1」の続きです。

5,報酬がどうやって決まるか
 Aさんの報酬が,「遅刻・早退したらその分減らされる」「時給制」といったように,働いた時間に応じて決まる場合は,「雇用契約寄り」となります。
 逆に,「この品物を1個完成させたら??円もらえる」「売上に応じた出来高制」といったような報酬体系をとっている場合は,業務委託契約寄りとなります。
 労働に対して対価が支払われる「雇用契約」と,成果に対して報酬が支払われる「業務委託」という性格の違いが,報酬の決まり方にも現れるわけです。

 ちなみに,「仕事の成果」「労働時間」どちらも関係なく報酬が一定というのは,単なる残業代の未払いですので,業務委託契約寄りにはなりません。(というか,思いっきり雇用契約寄りです。)

6,報酬の額
 Aさんの報酬の額が,同じような仕事をしている労働者と変わらない場合は,当然ながら「雇用契約寄り」となります。
 逆に,Aさんの報酬の額が,同じような仕事を処理している労働者よりもずっと高い場合は,会社に従属して働いているとはいいにくいですから,業務委託契約寄りとなるでしょう。

7,設備・道具を誰が用意するか
 (これは,6で「高い報酬をもらっている」場合に限られる話ですが)仕事道具をAさんが自腹で買って用意し,それを持ち込んで仕事をするという場合は,独立した事業者としての正確が色濃く表れますので業務委託契約寄りになります。
 なお,「報酬は安いのに仕事道具の費用は自腹」というのは単にブラックなだけですので,業務委託契約寄りにはなりません。(そりゃそうですよね・・・)

8,専属性があるかどうか
 Aさんが,他の会社の仕事の掛け持ちができない(禁止されているorそんな余裕がない)場合は,会社による指揮監督関係が強いといえますので「雇用契約寄り」となります。
 逆に,掛け持ちが禁止されていないし,それをやるだけの時間的な余裕もあるという場合は,Aさんは独立した働き方ができるということで,業務委託契約寄りとなります。

9,その他色々(会社のルール)
 「Aさんの報酬が源泉徴収されている」「Aさんを労働保険に加入させている」といったように,会社がAさんを労働者として扱うような制度を採用している場合は,「雇用契約寄り」となります。

 労働者性の判断にあたってよく挙げられる判断基準は以上のような感じです。あくまでこれらの要素を総合的に見てAさんが労働者にあたるかどうかを判断するものですので,「何個以上当てはまったら雇用契約になる」とか,そういうキッチリしたものではありません。

 とはいえ,大部分の要素について「雇用契約寄り」なのに,業務委託契約という建前にして「残業時間を管理していない。」「残業代を払っていない。」という会社は,後でAさんから雇用契約の成立を主張され,残業代をごっそり請求される恐れがあります。今回のコラムを読んで「うーん,うちは委託契約という名目でみんなに仕事をしてもらっているけど,実際は雇用契約になるんじゃないかなあ・・・?」と思われた方は,人事・労務の体制を整備された方がいいかも知れませんね。

 ちなみに,この手の「労働者にあたるかどうか」という問題は,実に様々な職種で裁判になっています。知られているところでも「音楽家」「タレント」「スポーツ選手」「NHK受信料集金スタッフ」「予備校講師」等など・・・。
 今話題になっているSMAPの皆さんが,所属事務所との関係で「労働者」なのか「業務の受託者」なのか,報道されている事情を以上の要素にあてはめて考えてみるのも面白いかも知れません・・・と,少々ブラックな締め方をさせて頂きます。